SaaS企業の上場戦略:上場する企業 vs あえて上場しない企業の違いとは?【Sansan・freee・SmartHR】

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SaaS企業の上場戦略:上場する企業 vs あえて上場しない企業の違いとは

💡 はじめに

こんにちは、Manahataです!

最近では、SmartHRのように未上場ながら大きな存在感を放つSaaS企業が増えてきました。一方で、早い段階でマザーズ(現グロース市場)に上場するスタートアップも多くあります。

たとえばクラウド会計のfreeeや名刺管理のSansanは創業から数年で上場し、一般投資家から資金を調達してさらなる成長を図りました。実際、freeeは2019年12月に東証マザーズへ上場し、上場時の評価額は約646億円に達しています。同年にはSansanも上場しており、初値時価総額は1,400億円超という大型IPOとなりました

未上場のまま成長する企業上場する企業では、どのような戦略上の違いがあるのでしょうか?本記事では、特に資金調達の観点からこの違いをひもとき、メリット・デメリットを分かりやすく解説します。SmartHR、freee、Sansanなどの実例を交えながら、スタートアップ関係者や転職希望者の方にもカジュアルな語り口でポイントをお届けします。


📈 上場するSaaS企業の狙い

資金調達の加速

  • IPOによって多額の資金を市場から調達できる。
  • 調達した資金を使って営業・開発体制を一気に強化。
  • 海外展開やM&Aを視野に入れた“攻めの投資”が可能になる。

社会的信用と認知度の向上

  • 上場企業となることで顧客や取引先からの信頼性が増す。
  • メディア露出や取引先開拓にも好影響。

優秀な人材の採用とリテンション

  • ストックオプション(SO)を使った人材獲得がしやすい。
  • 株価成長と連動したモチベーション設計が可能に。

株主との対話による経営の透明性

  • 決算発表やIR資料作成を通じて、経営の健全性が強化。
  • 経営に対するモニタリング体制が整い、持続可能な成長が期待される。

🔒 上場しない(未上場を維持する)SaaS企業の狙い

経営の柔軟性を保てる

  • 四半期ごとの業績開示に縛られず、長期視点でプロダクト開発・顧客価値向上に集中できる。
  • 利益よりも顧客体験やNPS向上にリソースを振り分けやすい。

社内文化の維持

  • 株主からの短期的な期待に左右されず、独自のカルチャーや判断軸で経営できる。
  • ミッション・バリューを優先する経営スタイルが貫きやすい。

特定の資本戦略に依存しない選択肢

  • ベンチャーキャピタル(VC)やPEファンドからの資金で成長を図るケースも。
  • PLだけでなく、キャッシュフロー重視・効率的成長を志向。

SmartHRのような例

  • ARR(年間経常収益)が100億円を超えているにも関わらず、未上場を維持。
  • プロダクト改善とCSの質向上を最優先に経営。
  • 「上場=ゴールではない」という価値観を打ち出し、採用・PRにも活用。

🔍 上場・非上場の選択を分ける判断基準

観点上場志向企業非上場志向企業
資金調達IPOで一気に拡大VCや収益による資金運用
経営方針開示義務に沿ったガバナンス重視ミッションドリブン、柔軟な判断
企業文化株主との対話やKPI重視社内カルチャー・長期価値創造優先
採用戦略SOを活用した急成長意思共感重視の採用

具体的な企業の事例から上場を選ぶ場合と未上場を維持する場合の違いを見てみましょう。

  • SmartHR(未上場を維持):
    SmartHRは2013年創業のHRテックSaaS企業で、労務手続きクラウドを主力サービスとしています。創業以来ベンチャー資金を積極的に活用し、未上場のまま急成長してきました。2024年時点で年間経常収益(ARR)は150億円を突破し、これは上場しているSaaS企業と比べても上位クラスの規模です。この規模まで成長しながらもあえて**「まだIPOを選ばない」戦略を取っており、業界関係者からは「そろそろ上場か?」との見方を良い意味で裏切る展開となりました。SmartHR自身は財務KPIを積極開示したり成長目標を社外に宣言するなど、上場企業さながらの透明性をあえて打ち出しています。これは未上場企業には珍しい取り組みですが、高い目標を公表することで社内外の関係者を巻き込み成長のモメンタムを生む狙いがあるようです。このように経営陣「未上場であり続ける」**ことを戦略的に選択し、必要な資金はプライベート市場で確保しながら、スピード感ある経営を貫いているのがSmartHRの特徴です。
  • freee(上場を選択):
    freeeは2012年創業のクラウド会計ソフト企業で、スタートアップ黎明期から注目を集めたSaaSの成功例です。freeeも当初はVC出資により成長しましたが、2019年にシリーズEまで資金調達を行った後、満を持して東京証券取引所マザーズ(現グロース市場)に上場しました。freeeが上場を選んだ要因の一つには、さらなる事業拡大に向けた資本の需要と、主要VCファンドの**エグジット(投資回収)時期が重なったことが考えられます。上場によりfreeeは知名度と信用力を飛躍的に高め、大企業との提携や新サービス展開を加速させました。例えば上場後、上場企業である強みを活かして地方金融機関との連携を深めたり、中小企業向けクラウドERP市場でのシェア拡大に成功しています(上場による信用向上が地方企業への浸透を後押しした面があります)。もっとも、freeeは上場後も積極的に成長投資を続けており、未だ営業赤字を計上する年度もあるなど「上場後もベンチャー的な成長重視」**の姿勢を貫いている点がユニークです。そのため市場からの評価が上下に振れる場面もありますが、長期的視点の投資家を惹きつけることで上場企業としての成長と株主価値向上を両立しようと努めています。freeeのケースは「上場=守りに入る」ではなく、上場をテコに更なる攻めの経営を行う好例と言えるでしょう。
  • Sansan(上場を選択):
    Sansanは2007年創業の法人向け名刺管理サービス企業で、日本のSaaSスタートアップでは比較的早期にその名を知られた存在です。創業から約12年後の2019年に東証マザーズへ上場し、初値ベースで時価総額1,400億円超という大型上場を果たしました。Sansanの場合、サービスの性質上、大企業との取引や信頼構築が欠かせないこともあり、上場による社会的信用の向上メリットが大きかったと考えられます。実際、上場後は顧客基盤を一層拡大し、名刺管理から営業支援領域へのサービス拡張(Sansanを軸とした営業DXサービスへの進化)を遂げています。この背景には上場で得た資金を活用した開発投資やマーケティング強化があり、さらには自社株を利用したM&Aによる事業ドメイン拡大も見られます。Sansanは上場企業として適度に黒字を維持しつつ成長を続ける安定成長モデルに移行しつつあり、未上場時代のような爆発的成長率は落ち着いたものの、株主への説明責任を果たしながら着実に企業価値を高めています。これはSmartHRのように未上場で高成長を追求するモデルとは対照的で、「上場後の持続的成長」という別のロールモデルを示していると言えるでしょう。

✅ まとめ

  • SaaS企業は、上場するかどうかによって経営スタイル・戦略に大きな違いが生まれる。
  • 上場することで資金調達・社会的信用・人材獲得が加速する一方、短期的なプレッシャーが伴う。
  • 非上場を選ぶ企業は、長期視点の価値創造やプロダクト磨きに集中する傾向がある。
  • どちらが正解というわけではなく、「どのような成長曲線を描きたいか」が企業ごとの選択基準となる。

この記事が、SaaS業界のキャリアや戦略に関心のある方のヒントになれば嬉しいです📘

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